大気差と気差

 観測者から遠方にある光源からの光が進行中に、大気をつくっている空気層の屈折率の違いによって通り路が曲がる現象は、天体や地上標的の方向を変えるやっかいな存在で、文部省編天文用語集ではこの現象を指すatmospheric refractionを「大気差」としている。

 大気差には、光源が星や惑星のように大気外方にある天体大気差と、地上測量の場合のように標的からの光路が地表近くの大気下層のみに限られる地球大気差とが含まれる。われわれは普通この両者の違いをあまり気にせず、明治時代からの慣習に従って、天文屋さんは主としてastronomical refractionを扱うが、これを大気差として地上の場合の屈折も含ませ、測量屋さんはterrestrial refractionを気差(昔は濛気差)と訳したが、これに天体の場合の屈折も含ませてきたように思われる。

 測量の世界では器差という用語もあるので、同音語はなるべく減らすことがワープロ時代あるいは同時翻訳時代の準備のためにはふさわしいので、この際一般用語としては大気差を、宇宙と地上を区別するときは上述したように天体大気差と地球大気差とに分けることを提案したい。意味合いからいえば、天体大気差は天文大気差でもよいが、これには別の原語のcelestial refractionがあってterrestrialと対になっている。

 遠方の水面下の標的が、大気の条件によっては水平面上に上って測量ができる時間帯があり、この視準線をrefraction lineと呼ぶが、日本では観測例がないらしく訳語がない。

LinkIcon(社)日本測量協会発刊 月刊「測量」より抜粋